1週間前の本欄に、学校教科書のことを書いたが、毎年今ごろになると、太陽の光射す教室の記憶とともに思い出す随筆がある。それは30年以上前、中学2年の国語の教科書にあった▼著者は川端康成、ハワイのホテルの食堂で見たコップの美しさについて書かれたものだ。伏せて並べられたコップの底の縁が光を受け、ダイヤのように輝くさまへの感動を「一期一会」の言葉で表現していた。その語の意味を知ったのもこのときだった▼何より、コップに発見した美を描写する文章の美しさに、行間に漂う言葉の力に、深く魅せられた。教科書から得た最上の学びとさえ感じている。先日ネットを検索し、「朝の光の中で」と題するこの随筆に、同じ思いを抱く人が少なからずいることを知った▼そして戦前の小学校教科書の「ススメ ススメ ヘイタイ ススメ」に触れた後、あらためて心に刻む。「朝の光の中で」に出合えたわれわれが、いかに幸せな中学生だったかを。