あれは、どのミュージシャンの逸話だったか。震災直後、あらゆるものを失い、原発事故が追い討ちをかける絶望の日々の中、被災地に命につながる食料品や水、薬品、ガソリン、衣服、暖房器具などが送り届けられた▼そんな中、心ある歌い手の中には「歌では誰も救えないのか」と自分の力のなさを嘆く人もいた。しかし別の歌手が言う。「僕たちは今は無力でも、いつかきっと音楽が必要とされる日がくる」と▼震災後聴いた西田敏行さんの『あの街に生まれて』と普天間かおりさんの『負けないで』には勇気づけられた。先月28日に都交響楽団を迎えて開いた「ぼくとわたしとオーケストラ」で、満員の小中学生が大合唱した『翼をください』も胸に迫るものがあった▼震災から2年。物資面での心配はなくなったが、被災者の中には疲労感や絶望感にさいなまれる人が少なくない。音楽に象徴されるような精神面での確かな希望を、どこに見いだせばいいのだろう。
片隅抄