震災前のことだが、ある方にお歳暮を贈った。その後その方にお会いした時、「僕は君のおかげで肝臓壊しそうだよ」と言われ、一瞬凍りついた▼贈ったものは、「メヒカリの開き」。あまりの美味しさについつい酒が進んでしまうと言うことらしい。「肝臓壊しそうだ」と言うのは最大級の褒め言葉だった▼メヒカリに限らずいわきには、「ウニの貝焼き」「やなぎがれい」など豊かな海の幸が、その美味しさだけでなく、立派な観光資源としていわきを支えていた。それが震災後、いや、原発事故以降、一変することに。次から次へと出てくる汚染水の流出問題が拍車をかける。試験操業のめどすら立たない状況では、漁業関係者のみならず、いわき市にとって死活問題だし、悔しさだけが残る▼魚介類が何不自由なく食卓に乗っているだけに忘れられがちだが、産地が違う。オリンピック招致で沸く日本だが、もろ手を挙げて喜べない人たちがいることも分かってほしい。
片隅抄