高校卒業と同時にいわきを離れ、そのまま就職・結婚等で県外で暮らし続けているというケースは多聞に及ぶ。そんな女性の1人と、震災を機に交流ができた▼彼女は沿岸部出身の50代、実家の両親を津波で失った。弊社への電話を振り出しに、幾度か手紙のやり取りをしていたが先日、初めて会う機会を得た▼聞くと、これまで一度も震災犠牲者の追悼行事に出席したことはないという。生まれ育ったまちで、両親をはじめ多くの人が命を落としたことをなかなか受け入れられなかったからだと話してくれた。また、実家があった場所は、復興土地区画整理事業の区域にあたり、懐かしい風景がいずれ面影もなく変わってしまうのかと思うと寂しい、とも▼沿岸部復興においては、防潮堤のかさ上げや防災緑地の整備が進行中だ。当然それらは住民の安全を守るために実施すべき事業である。だが、故郷の思い出のよすがを奪うことにもつながり、切なさもまた禁じ得ない。
片隅抄