全国各地から桜の便りが次々に届き、当地でも花笑みの季節はもうすぐだ。いわき出身の俳人・故皆川盤水氏の作品に「桜の芽海より雨のあがりけり」の一句がある。昭和59年の作品で、句集『寒靄』に収められている▼最初にこの句に出合った時に抱いたのは、海の近くに桜の木があるという情景から、「故郷のいわきで詠んだ作品かもしれない」という思いだった。勿来の関公園や三崎公園など、市内には海が望める桜の美しいところがいくつもある。身近にあるそうした場所の春の光景に、この句が重なった▼が、氏の著作『俳句の魅力』の〝自句自解〟により、「熱海の伊豆山神社へ詣でた時の句」と分かった。いわきを詠んだのではなかったことに少々残念な思いもある▼しかし、果てなき大海原と小さな桜の芽が一緒にある句には親しみを覚える。また〝自句自解〟中にあった「春の雨はあがるとなんとなくのどかな気分になる」という氏の心持ちにも共感を得た。
片隅抄