一度はナマで見たいと思っていたあの「新美南吉童話全集」を、きょうから草野心平記念文学館で始まった夏の企画展で見ることができた▼市の北方、800㍍級の山々に囲まれた小川町戸渡地区。豊かな自然に恵まれた市境の農村から修学旅行で皇居を訪れた分校の児童・生徒たちは、皇居に花が少ないことに気づく。昭和33年のことだ。故郷に帰ると集落を挙げてヤマユリの球根を掘り出す。その数2000個▼やがて戸渡の白いヤマユリは吹上御苑を美しく飾り、ご成婚間もない当時の皇太子ご夫妻の目にとまることとなる。それから3年。いわきを訪れたご夫妻はヤマユリをお忘れになることなく、子どもたちに平駅で直接お会いになり、全集を手渡された▼ご夫妻のお優しい心遣いと子どもたちの純粋な気持ちから生まれたヤマユリの物語。閉校になった後も、原発事故の影響を受けた後も、人影は絶えても校庭には記念に賜ったメタセコイアが元気に育っている。
片隅抄