夏を迎えて、今、あのヤマユリの子孫たちはどうなっているんだろう、とふと思った▼小川町・戸渡地区のヤマユリのことだ。修学旅行で訪れた皇居に花が少なかったことから、子どもたちが戸渡に咲くヤマユリの球根を初めて贈ったのが昭和34年。その2年後、放魚祭でいわきを訪れた当時の皇太子ご夫妻が直接、平駅で子どもたちにお礼を述べられた。いわき市史に欠くことができないほほえましいエピソードだ▼「原発事故で放射線が高くなり、人がいなくなったあと、イノシシが球根をみんな食べちゃって、今じゃ戸渡にヤマユリはないよ」という話を聞いたが、今度確かめてみたい▼ところで、皇居に植えられた戸渡のヤマユリは今も咲いてるんだろうか。もし咲いていれば、原発事故被災地となった戸渡に、かつて皇居に植えられたヤマユリの子孫たちを里帰りさせるという明るい話題につながるのだが…。もちろんご夫妻もお忘れになられていないはずである。
片隅抄