生まれながらのカナヅチだが、もし、わが娘が川や海で溺れることがあったら、何も考えず飛び込んでしまうだろう▼冷静に判断すれば、娘を助けることなんか無理だ。自分も間違いなく溺死する。誰か助けを呼んだ方が娘を救える確率は高いのだが、そんな理屈ではない。助けようとした親が死んで、子どもは周りの人に助けられたというニュースを時折目にするが、体を張って子どもを守るとはそういうものだろう▼その親に長期間虐待され、殺された心愛ちゃんを守る大人は誰ひとりいなかった。学校の先生、児童相談所や教育委員会の職員、近所の人たち。心身とも傷ついた10歳の女の子が絶望の中で救いを求めたSOS。それに対し彼らが取ったのは保身だ。恫喝が怖かった、余計なことに関わりたくない、所詮は他人の子ども――なのだ▼プロとして体を張って彼女を守れたのは、もはやテレビの中のヒーローしかいないのか。ぜひ現場の人たちの声を聴きたい。
片隅抄