今から40年前、「典子は、今」という映画を見た。サイドマイドによって両腕のないまま生まれた女性のセミドキュメンタリーで、松山善三がメガホンをとった▼まだ障がい者への差別や珍しいものでも見るような偏見が色濃く残っていた時代。母親や親友、教師ら周囲の人たちの力強い励ましで明るく育ち、見事熊本市役所職員に合格する▼主人公を演じたのは辻典子さん本人で、その後結婚し、2児の母親となった。全国を回って講演も行った。市役所に出勤する朝、器用に足で口紅を塗るシーンが印象的だった▼パラリンピックの開会式で〝片翼の小さな飛行機〟を演じた車いすの中学生・和合由依さんを見ながら、典子さんのことを思い出した。差別や偏見のない社会をつくろうという機運が高まり、40年前と比べれば障がい者を取り巻く環境も変わった。その象徴としてパラリピアンの活躍がある。今の流れが障がい者福祉のますますの充実につながれば、と思う。