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片隅抄

2022.05.07

3歳で母親を亡くした娘は今、28歳。母親との思い出は、スーパーで買い物中、両親に手をつながれて何度もジャンプした、その手の温もりを辛うじて覚えているだけだという▼母の日にちなみ保育所でお母さんの顔を描いたと聞いて、娘には酷だなと思ったが、「これ? ばあちゃんの顔だよ」と誰よりも愛情を注いで面倒をみてくれた人の顔を素直に描いた▼そのばあちゃんも93歳。5月の第2日曜日。昼間は母親のお墓にカーネーションを供えて近況報告をし、夜は母親代わりだったばあちゃんにごちそうを振る舞う。たいしたことはできないが、これがわが家の母の日のルーティンだ▼思い出がないほど早くに母を亡くした娘と違い、自分が63歳になった今も母親が健在であることを幸せに思わねばならない。小学生のとき、農業に忙しかった母にキュウリの種をプレゼントしたことを今も覚えているという。それは親孝行をほとんどしていないという戒めでもある。

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