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片隅抄

2022.07.05

小学低学年のころ、家に帰る道すがら甘柿を〝失敬〟し、腹を満たしたことがあった。おいしそうな実がなっていたから思わず手を伸ばしたのだろう、罪悪感はなかった▼そのころか、水木しげるの妖怪図鑑を図書館で借りて読み、あるページをめくり凍り付いた。たんころりん。仙台に伝わる柿の木が化け、柿の実をポトポトと町に落としていくだけの妖怪だが、姿かたちが僧侶の顔のみ。抄子は人を喰らう顔の妖怪、つるべおとしと勘違いし、いつか〝柿どろぼう〟を捕まえにくるのではないか、と身震いした▼水木の妖怪は、江戸の絵師・鳥山石燕をはじめ数々の民俗資料・文献を参考に再現されており、自然とともに生き、闇を恐れた日本人の心の奥底にぐさりと突き刺さる▼市立美術館では来月20日まで、「水木しげる魂の漫画展」が催されている。久しぶりに目にした絵はやはり別格だったが、大人になった今は生前に収録された「為せば成る」のVTRが心響いた。

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