知らなかったとはいえ、報じる側の責任は重い。いわき市にもゆかりのある劇作家・谷賢一氏が、主宰する劇団の女性に性暴力を働いたとして、女優の大内彩加さんが実名で告発した。自宅で力ずくで性行為をされたことや、無料通信アプリ「LINE」の赤裸々な内容などが明かされた▼谷氏と初めて出会ったのは、いわきアリオスで初演された「福島三部作」だった。原発を巡る福島の50年を丁寧に映し出し、お粗末ながら初めて舞台芸術の魅力に触れた。取材翌日に改めて自費でチケットを購入して観賞したぐらいだ▼告発があったのは、南相馬市小高区で原発事故をテーマにした新作が披露される前日だった。大内さんは飯舘村の出身で、逡巡や葛藤があったことは容易に想像できる▼谷氏は「事実無根。司法の場で争う」と反論している。結論は法廷にゆだねられたが、女性の尊厳を踏みにじったのが事実ならば、人の道に外れている。さらに被災地も傷付けた。
片隅抄