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片隅抄

2024.04.16

水の上に/さくらの燃ゆる/夜の火事は/さそはるるまで/美しきかな▼入遠野に生を受け、将来を嘱望されながらも27歳で生涯を閉じた田部君子が、昭和11年、20歳で詠んだ歌だ。遠野和紙に赤い墨でしたためられた歌を目にし、鮮やかな情景が浮かんだ。入遠野川、はたまた水を張った水田か、水面に映し出される染井吉野、山桜の燃えるような美しさが月明かりに映える▼君子はその年に高野の農家に嫁いだが、家庭と創作の両立に苦しみ、逃げるように上京。24歳で離婚する。再出発を期するも戦争が勃発。歌壇全体が戦争讃歌へと変わるのを君子は良しとしなかった。表舞台から君子の歌が消えた。そして病を患い、昭和19年3月、命の灯も消えてしまう▼勿来関文学歴史館で2度、君子が紹介された。素晴らしい取り組みだ。同じく若くして夭折した諸根慶子とともに、より多くの方々に彼女たちの埋もれた才能を知ってほしい。弊紙の一文がその一助となれば。

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