スリークオーターで球速があった。〝たっぱ〟もあったので、入部間もなくブルペンに呼ばれた。マウンドから投げるのは初めてだったが、訳も分からずクイックで1球投げてすぐ監督に止められた。「もういい」▼何が悪かったのか、今も分からない。所作か体の軸か、リリースポイントか。中学で野球の基礎を学び、漠然とながら高校で甲子園を目指したいと思っていた。鮮烈に覚えているのは、前述の出来事と中体連最後の試合。監督の温情で打席に立ち見事に空振り三振。あの情景は今も夢に出る▼四十を過ぎ、プロ野球のOBが出演する動画投稿サイトを見るようになった。包み隠さず明かす技術の数々に目から鱗状態。これを当時見てたらもっと上手くなっていただろうか。今になって野球が恋しくて仕方がない▼控えの気持ちが痛いほど分かる。久しぶりに球場に通いベンチから声を出す選手を間近にし、「後悔しないよう全力で頑張れ」と思わずつぶやいた。