学園ものの小説は数多くあるが、吹奏楽を扱ったものはあまり多くない。その中でも、中沢けいさんによる『楽隊のうさぎ』は、大学入試センター試験(現・大学入学共通テスト)にも出題された秀作だ。近年では『響け!ユーフォニアム』が良く知られている▼著者の武田綾乃さんは、自らも小・中と金管バンドでユーフォニアムを吹いていた。インタビューではタイトルに選んだ理由として、「『お、この作家は吹奏楽のことを知ってるな』と伝わるかなと思って」と明かしている▼そして京都アニメーションによる映像化は、多くの人の心をひきつけた。群像劇が手に取るように分かるのは、アニメーターたちの努力のたまもの。楽器の細かい描写は、さすが京アニと感心した▼あの悲劇から、きょうで5年。一人の男の身勝手な思いからスタジオが放火され、36人が亡くなり、32人が重軽傷を負った。いまも悲しみは続くが、珠玉の作品はこれからも残り続ける。