巨匠、大家と呼ばれる写真家の作品展を何度か見たことがある。会場に限らず、旅行がてら山形県酒田市にある土門拳記念館、奈良県の入江泰吉記念奈良市写真美術館にも足を運んでいる▼東の土門、西の入江と称され、共通するのは「古寺巡礼」「大和路」に通じる古都の風情。それにならい、奈良県を旅しながら、寺社などを撮影し雰囲気に浸ったものだが、写真の出来栄えは遠くおよぶものではなかった▼公園の樹木を背景に揃いの服を着てたたずむ2人の少女。いつかどこかで見た写真だった。変哲もないが、しばらく記憶に残っていた。その撮影者が現在、催されている市立美術館企画展で分かった▼幼少時、病を患いハンディを負いながらも自己の世界観を探究、1983(昭和58)年に36歳の若さで没した写真家牛腸茂雄。作品名は「双子の少女(井の頭公園)」。被写体に向き合うと、巨匠らの迫力とは違う独自のまなざしが胸に伝わってきた。