米国史上最も有名な匿名情報提供者――。ニクソン政権を巡る政治スキャンダル・ウォーターゲート事件で、米連邦捜査局(FBI)の副長官を務めたマーク・フェルト氏が「ディープスロート」だったと2005年に明らかになった▼その内実は同年出版の『ディープ・スロート 大統領を葬った男』で語られている。この著者で、卓越した調査報道で知られるワシントン・ポストの記者、ボブ・ウッドワード氏を、1976年公開の映画「大統領の陰謀」で演じたロバート・レッドフォードが鬼籍に入った▼実話を基にしたドラマとして、政権の不正をあばく姿はいま見ても色あせることはない。血気盛んな後輩を抑えつつ、ともに闇に切り込む先輩記者役のダスティン・ホフマンの好演も光る▼単なる社会派サスペンスにとどまらず、作中では「報道の自由」を強調するシーンが忘れられない。名優の死に改めて、為政者にとって都合の悪い存在でありたいと強く感じる。