いわゆる文学小説や詩、古典などとは縁遠くなり、今は気軽に読めるスポーツ系ノンフィクションが主流になってしまった▼熱心にページをめくったのは中学から高校生のころ。といっても夏目漱石や太宰治、志賀直哉、島崎藤村、石川啄木、立原道造、中原中也、遠藤周作らおなじみの作家たちの作品だが、長じてからもその一節が頭に浮かぶほど貴重な体験だった▼娘が生まれてからはもっぱら、面白い絵本探しに熱中した。中でも黒井健、和田誠、せなけいこ、林明子さんらの絵はほっこりとやさしくて、図書館の日だまりで、夜の寝床で、台所で夕食を作るそばで椅子に座りながら親しんだ。紙芝居や仕掛け絵本も楽しい▼朝ドラの主人公小泉八雲の『怪談』は今でも親子共通の話題にのぼっている。中でも「ろくろ首」は俳優橋爪功さんばりの声色を使って読み聞かせしたものだ。これだ、という１冊の本との出会いは、かけがえのない人生の宝だと今になって思う。
