名優がまた鬼籍に入った。仲代達矢さんが8日、92歳で亡くなった。「人間の條件」「影武者」など代表作は多いが、「日本の熱い日々 謀殺・下山事件」を推したい▼戦後最大のミステリーとも言われる国鉄総裁・下山定則が列車にひかれた遺体で発見された未解決事件を扱っている。1981年公開の映画だが、49年当時の映像も交えるため、この時代では珍しく白黒。実在の新聞記者をモデルに、戦後の闇と対峙する姿を仲代さんが演じている▼仲代さんはいわきとの縁も深い。いわき演劇鑑賞会の招待で、自らが主宰する無名塾の公演をたびたび行った。楽屋で静かにたたんでいる姿が印象的だったという。ある時、体調が悪くなり、親交のある市内のクリニックで点滴を打って舞台に立った▼公演ではおくびにも出さない。まさに芝居にかける並々ならぬ思いがそうさせたのだろう。晩年は能登半島地震の被災地支援に心を砕いた。不屈の闘志は人々の記憶に残る。