著 者:桜木 紫乃
出版社:毎日新聞出版
価 格:2200円(税込み)
他人になりすまし17年の逃亡生活。わたしは誰?
物語は、とある人物の逮捕から始まります。
都心の駅で毒ガスを散布した実行犯として懸賞金つき指名手配中だった四十歳女性。しかし彼女は事件について何も知らされず、当日ただ同行させられただけの〝無実〟といえる存在でした。それでも彼女は、十七年という長い年月を逃げ続けます。
名を変え、他人になりすます日々。あるときは町のスナックで働き、あるときは介護助手として勤務し、表の生活にとけ込んでいく女性。「逃げるから追われる、それだけのことなのだ」。人目を避け、隠れるように逃げるだけじゃない、人と関わりながら居場所を作り上げていく。その姿にしたたかな強さ、生きるたくましさすら感じます。
事件当時二十三歳だった彼女が四十歳で逮捕されるまでの十七年間は、他人を演じ続けただけの偽りの人生なのでしょうか。そして、半生を逃亡生活に費やした彼女の本当の〝罪〟とは一体何だったのでしょうか。秋の夜長に深く考えさせられる一冊です。
(ヤマニ書房本店勤務)
※紹介する人:内藤ともみさん