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四倉に伝わる「雨乞い」 五穀豊穣願って かつてはいわき地方で広く実施
四倉町表玉山地区の田んぼの一角にある小さな祠で2日、「雨呼ばり」と言われる珍しい伝統儀式が行われた。祠には「雷神様」が祭られており、田植えの作業が一段落する6月の第1日曜日に農業を営む表玉山地区の住民が集まり、五穀豊穣のための適雨・適照を祈願する。
いまは玉山農事組合(高木淑裕組合長)が主催しており、今年は住民ら15人が祠の傍らにたたずみ、雷神様の依り代となっている一本杉を前に読経と献杯をささげ、豊かな実りを願った。
四倉・大野地区を中心に長く郷土史を研究し、大野公民館の市民講師も務める馬上喜好さんの研究資料によると、雨乞いの儀式は大正時代の末ごろまではいわき地区の広い範囲で行われていた。
田植えどきになっても雨が降らないと、区長が儀式の触れを村に出し、村人たちは雲ひとつない〝カンカン照り〟でも蓑笠姿で雷神様の祠の前に集合。空に向かって大声で「雨呼ばり」の唱えごとをしたという。
雨乞いが残っているのは市内では玉山地区だけで、今年の儀式に参加した住民などによると、いつごろから続いているか記録に残っていないため定かではないが、代々の農家が受け継ぎ、儀式が終わると祠の前で飲食をしたり、カラオケの機材を持ち込んで歌ったりするなどし、にぎやかに過ごした時期もあった。
また、祠の傍らに立つ杉の木は「雷神様の1本杉」と呼ばれ、雷神様の依り代とされるが、今の一本杉は3代目で高さは15mほど。樹齢は約50年。2代目が春一番の強風で倒れたあと、1976(昭和51)年5月に住民たちが植樹した。
玉山区長の荻恒夫さんは「初代は病気で幹の中が空洞になり、ダメになった。田んぼが近く湿った土地なので、根が成長すると地中の水分の影響で傷んでしまう」と振り返るが、周辺の田んぼは2年後に圃場整備が計画されており、杉の木も祠の移転とともに新たに植えることが検討されている。ただ、雨呼ばりの儀式は表玉山地区の伝統行事として今後も続けていく。
(写真:雷神様の祠の前で行われた雨乞い儀式)