「多くの方に支えられ、生活することができてきた。心と心がつながることの大切さを感じた」。泉町の蛭田眞由美さん(63)は生まれつき重度の脳性まひがあって体が不自由な中で、同じ障害を持ち、2018(平成30)年に急逝した夫・実さん=享年(68)=を描いた書籍を出版し、25日には市教委に計94冊を寄贈した。
子どもたちにも知ってもらいたい――。そうした眞由美さんの思いに心揺さぶられ、児童・生徒や教職員に講話してほしいと、同席した市の教育関係者が提案した。
眞由美さんと実さんの出会いは1998年。互いに当事者として、障がい者の自立支援にかかわっていたが、次第にひかれあった。当然のように周囲からは反対されたが、介助を交えて共に2年間暮らし、納得させることに成功。2005年に結婚した。
実さんは、眞由美さんと比べて障がいの程度がより重かったが、常に意欲的だったという。結婚した年には介護事業の会社を立ち上げ、実さんが社長に就いた。さらに眞由美さんが2012年、NPO法人ハッピーメイトを設立し、理事長として、障がいの有無に関係なく社会で生活する機会を提供している。
いわき民報の「くらし随筆」を担当したこともある実さんは、自叙伝の執筆に着手する。両手がまったく動かないため、棒の先に消しゴムを付けてパソコンのキーボードに向かい、ユーモアたっぷりに綴っていた。しかし志半ばで亡くなり、眞由美さんは遺志を継ごうと決心した。
本のタイトルは「甘い物とウーロン茶」。どちらも実さんの大好物で、偶然にも最期の日の朝食でもあった。「まさか、あんなに早く亡くなるとは思わなかった。急に呼吸が苦しくなって……。いまでも仏壇にはウーロン茶をそなえています。たまに甘い物も」と、眞由美さんは優しく語り掛ける。
書籍化に向けてはクラウドファンディングを活用し、昨年2月に自費出版にこぎつけた。「突拍子もないタイトルのほうが目を引くでしょう」と笑う。本が自由に管理できるようになり、今春から教育機関への寄贈を計画。市内の図書館や県教委にも贈り、ヤマニ書房でも販売が始まった。
「夫は生前、生まれ変わってもまた障がい者として生きたいと話していた。そんな強い気持ちを、これからを生きる学生さんたちに読んでもらえれば」。25日に市役所東分庁舎で行われた贈呈式で、眞由美さんは寄贈の意義を強調した。
市教委学校教育課の鈴木路人課長は「綴られた言葉は心地よく、その前向きさに感銘を覚える。読む人に生きる勇気を与えてくれる」と述べ、本を届けることで、それぞれの学校に広く伝えていくと約束した。
鳥居作弥県議が同行した。
(写真:蛭田眞由美さんから本を受け取る鈴木課長)
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