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市民の芸術活動下支え使命に いわき市唯一の音楽学芸員 足立優司さん退任
春は別れの季節。いわき芸術文化交流館「アリオス」で、唯一の『音楽学芸員』を務めてきた足立優司さん(60)が31日をもって退任する。
いわきアリオスに開館準備段階からかかわり、当地の文化振興に貢献してきた。市民の芸術活動を下支えすることを使命とし、地域と連携したホールのあり方を模索してきた思いは引き継がれていく。
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「ここに平市民会館が建っていたことを覚えています。閉館に際してのイベントにも参加しました」。本紙が3月下旬、いわきアリオスでインタビューに臨むと、足立さんは朗らかに当時の様子を振り返った。
足立さんは京都府向日市生まれ。国際基督教大教養学部卒、同大大学院行政学研究科博士前期課程修了。東京・三鷹市芸術文化センター音楽企画員だった2006(平成18)年夏、いわき市で始動した新たなホールの計画に協力する機会を得た。
翌07年5月にいわきアリオスの開設準備室に転じ、立場や職名こそ変われど、20年にわたって関係を持ってきた。
最初期にはいわきの音楽界で活躍する『重鎮』とも対峙。合唱指導者として名高い石河清さん、岡部林之助さん、桐原帒純さんや、吹奏楽指導の第一人者・根本直人さんと意見交換しながら、新しいホールがもたらす役割に理解を求めた。
くしくも4人とも鬼籍に入っている。「皆さん素晴らしい先生方だった。何時間もお話をした日は忘れられない」と目を細める。
いまでは市民にとって不可欠なホールだが、特にNHK交響楽団(N響)が年1回、定期演奏会を行うことは大いに誇りとしてほしいと語る。
「日本を代表する楽団のN響が、毎年来ることが約束されている東北唯一の街。コロナ禍を踏まえ、N響の音楽家が街に出向く『N響いわきアンバサダー』も始まり、プロの楽団が地域と協働して街を活性化させる取り組みは、シティプライド(街への誇り)につながる」
20年にわたるかかわりの中で、2011年の東日本大震災の経験は避けては通れない。避難所でクラシックの演奏会を企画した際、関心を持てずに断られる場面に遭遇した。平時から音楽との出会いがあれば、苦しい時に癒しを享受できたのではないか――。当たり前に芸術文化があふれている街にしたいと強く念じた。
子どもたちが音楽に親しむ機会も増やしてきた。そのひとつがプロの弦楽器奏者が講師の「子どもの弦学校」。吹奏楽が盛んないわき市では管打楽器に触れることは容易だが、首都圏と異なり弦楽器はなかなか難しい。そのきっかけづくりを行った。
いわき市での活動は一区切りを迎えるが、文化振興を追求する姿に変わりはない。「音楽を身近に感じてほしい」。足立さんは旅立ちに合わせて力強く呼びかけた。
(写真:いわきとの20年を振り返る足立さん)