年かさの読者なら「船頭さん」という童謡をご存じだろう。「村の渡しの船頭さんは今年六十のおじいさん」で始まるあの歌だ。発表されたのは昭和16年。で、日本人の平均寿命が男女ともに60歳を超えたのは、昭和26年からだ。当時、60歳はまさに「おじいさん」だったに違いない▼翻って今、60~70歳代での死を「まだ早い」と感じる時代になった。医療と生活の質が格段に向上した結果にほかならないが、新たな問題も生まれている▼最近クローズアップされているのが、認知症による徘徊等で行方不明となる高齢者。全国で年間延べ1万人超という。死亡して見つかることもあり問題は深刻だ。そして、若年層の自殺。先進7カ国で、15~34歳の死因の1位が自殺というのは日本のみだという現実▼「60歳がおじいさん」だった時代に比べ、とても豊かになったのになぜ? 長生きがつらさを伴う事例に触れるたび、こんな日本であっていいはずはない―と思ってしまう。