先日、テレビで面白いシーンを見た。それは弦楽五重奏の演奏会場でのことだ▼ステージのバイオリン奏者が突然、演奏をしながらある観客のテーブルに近づいていく。テーブルにいた男性は携帯電話でしゃべっていたのである。バイオリン奏者は何食わぬ顔で男性の耳のそばで弾き続けた。それに気づいた仲間の4人も男性の周りに集まって演奏したのだった▼最近、聴く側のマナーの低下にまゆをひそめることが多い。演奏中にカメラ撮影をし、シャッター音や操作音を鳴らし続ける。傍若無人に紙袋を開閉したりバッグに着けた鈴の音を立てる。演奏中にどやどや会場に入って堂々と前の方の席につく▼誰も注意をしなかったが、ほかの聴衆はどう思っていたのだろう。アリオスのように素晴らしいホールができ、いい音楽を聴けても、肝心の聴衆のマナーが悪くては本末転倒だ。座禅のように神妙に聴けとは言わないが、周りの人たちへの気遣いを忘れてはいけない。