「私がかつて人の悪口を言ったことがあるか」「誰か私が一度でも人の悪口を言っているのを聞いたことがあるか。私は一度としてない!」。言葉の主は元総理田中角栄さん▼昭和55年、自民党反主流派が野党提出の大平内閣不信任決議案に同調、可決された時、自派の緊急総会で発した激怒の声である。保守政党人として誤った行動に出た政治家らをこのあと厳しく批判した。これが自らの禁を破った悪口だった▼戦後70年に合わせるかのように「田中角栄」に関する書籍が目立つ。とかく金権政治の元凶のように批判されもしたが情と理、強烈なリーダーシップで位人臣を極めた英傑と現在の評価も変わってきている▼「初めに結論を言え。理由は三つに断定しろ」「ノーで信頼度が高まる場合もある」などの角栄語録も知られている。悪口とともに参考にすべき点も多い。批判を恐れず国益のため中国、旧ソ連と渡り合った行動力が今となっては懐かしい。
片隅抄