生前の瀬谷安雄さんにお会いして、遠野和紙の取材をしたことがある▼瀬谷家は代々、遠野町で紙漉きを続けてきた。安雄さんは伝統的な和紙の製作技術をもつ者として、父の代から市の無形文化財に指定されていた。しかし安雄さん亡きあと後継者がおらず、この技術は指定から外されてしまった▼それでも今は、地域おこし協力隊の方々が代わって楮の栽培や技術の習得・継承に努めており、遠野オートキャンプ場では紙漉き体験ができる。何より地元小・中・高校の卒業証書が遠野和紙製であることが一市民としてもうれしい。昨日の本紙でも入遠野中生が楮の刈り取り作業をしたと報じていた▼いま、「遠野和紙」と書いたが、ひところ「いわき和紙」と改称させられていた。何と馬鹿げたことをと憤慨したが、最近また「遠野和紙」と表記されるようになった。二本松市の上川崎和紙、常陸大宮市の西ノ内和紙のように、いわきでも和紙文化を大切に残してほしい。
片隅抄