東京五輪の全14階級で金9・銀1・銅1のメダルを獲得した日本柔道。お家芸の面目を保ったが、それ以上に印象に残ったのが、優勝しても愚直なまでに畳の上では喜びを表に出さない選手たちの姿だった▼特に、五輪男子73㌔級で連覇を果たした大野将平にはサムライの趣さえ感じる。今大会も勝った瞬間、グイッと歯を食いしばっただけ。大きく息を吐いて聖地・日本武道館の天井を見つめ、怒ったような表情が笑顔になったのは畳を下りてコーチと抱き合ったときだった▼「うれしいなら素直に喜べばいいのに」という声もある。しかしそれがスポーツと一線を画す武道というものだ。最近は全身で喜びを表す日本人選手も多くなったが▼大相撲の最高位にいる白鵬の不幸は、この武道精神を最後まで身につけられなかったことで画竜点睛を欠いたことだ。民族性の違いよりも、日本人の親方や協会が入門時に叩き込まなかったことが悔やまれる。強さだけでないのだ。