じっくりと腰を据えて話を聞いたのは、19年前の県議選のことだ。詳しくは記憶の彼方だが、一点を見つめ政治信念を語る姿を覚えている。抄子の叔母が同級生だったと明かすと一転破顔し、好々爺のような優しい表情に。檀上で気分が乗ると、マイクを持たない片方の手を回し出す姿がほほえましかった▼櫛田一男氏が7日逝去した。85歳。平成17年の市長選では立候補を予定していた同僚県議が健康上の理由で出馬を断念し、紆余曲折の末、「いわきを変えたい」との思いを男気で引き受けた▼自民党推薦を受け、3期目を狙う現職に〝市民党〟的立場で打ち勝つと、累積赤字が増える市立病院の改革をはじめ、行財政の健全化に向けて市政運営に尽力。市長の座はわずか1期で明け渡したが、その後も後進育成などの政治活動に心血を注いだ▼情に厚い人間味あふれる政治家で、周りには常に人がいた印象がある。尊敬する人は吉田茂。座右の銘は「真実一路」だった。
片隅抄