参院選の応援演説のさなか、凶弾に倒れた安倍元首相。反対の声が渦巻く中、日本武道館で「国葬」が執り行われた。館外の混乱をよそに式は粛々と進み終了した▼ここで比較されたのが、敗戦直後の日本の命運を担った吉田茂元首相。昭和42年10月20日、89歳で生涯を閉じるも11日後の31日、戦後初の国葬で送られた。当時の状況が知りたく本紙をひも解いてみた▼11月1日付2段見出しで「弔旗を掲げて一分間の黙禱」と平の商店街の半旗写真、16行記事と扱いは大きくない。一連の国葬報道の中で、個人的には喪主吉田健一の映像に興味が引かれた▼政治とは無縁で英文学者として現在まで名を残している。酒豪としても知られ、パパと呼んだ茂の死は堪えたようで、相当酒を飲んだらしい。やや難解な文芸論よりも、こちらは酒食エッセイが愛読書である。国葬当日は、中央大文学部教授として講義を行うなど、公私の立場を厳然と守った。味わい深い人物である。