「狩猟採集で豊かな日常を」
狩人 高倉 健太さん(泉ケ丘)
獲物を運ぶ軽トラックが相棒だ。里山に分け入り、野生動物と対峙(じ)する。イノシシのわなの見回りは1年のうち約300日。林道やでこぼこ道を進んだ先などで痕跡を見つける。足跡や糞(ふん)の時期を見極め、標的に近づく。好天や降雨、強風や雨上がり……。頭に入っている地形上を天候の変化で移動する獲物の姿を想像し、銃やわなで仕留める毎日だ。
茨城県北茨城市出身で泉ケ丘在住の狩人高倉健太さん(43)。モットーは、先輩猟師から教わったという「生き物を2度殺すな」。処理を誤るとくさみが出たり、硬くなるなどして食肉としての質を落としてしまう。止め刺しした獲物から素早く内臓を抜き、冷水や雪で体温を下げる。獲物を美味(おい)しく活用することが自分の務めだと心得ている。
しかし東電福島第一原子力発電所事故の影響で市域の鳥獣は放射性物質で汚染された。市によると現在、摂取制限の対象外だが、出荷制限の指示があり、自家消費の自粛が求められている。
高倉さんは獲物の放射性物質の検査をした上で、仲間内で消費する。「ジビエ肉が臭いというのは誤った認識で、丁寧で正しい処理の仕方をすれば美味しくいただける」と話す。百円ショップで購入した果物ナイフ1本で鳥獣を解体している。
本業は常磐西郷町のフリークライミングジム「ジャンダルム」の経営者。東京理科大学を卒業後、普及しだした携帯電話の開発会社に就職した。「他人がやらない分野で人の役に立ちたい」。開拓精神はクライミングや狩猟にも通じている。
海や里山に囲まれた港町近くで幼少期を過ごした。祖父から教わったという釣りや散策の体験が自然観を育む下地になった。狩猟の合間には旬の山菜など山の恵みを収穫。里山を維持するために草刈りやごみ拾いをすることも日課となっている。
銃で仕留めた鳥獣が崖下や谷底に落ちた時、重宝しているのがクライミングで修得したロープワーク。道なき道を進んだり、獲物を引き上げる際に役立っている。
現代版「狩猟採集民」のような生活。スーパーなども大いに利用するというが、身の回りで無駄になっている食べ物や、薪などの資源も活用する。「ちょっと意識を変えるだけで豊かで楽しい日常が送れるはず」。将来は知識を生かし、里山を舞台にしたネイチャーガイドになることが夢という。