20年前、川内村の「天山文庫」を初めて訪れた。社の先輩にルートを聞き、知人と2人で出かけたのだが、同地につながる鹿又渓谷の紅葉が見事だったことを覚えている▼草野心平については知人の方が詳しく、毎年7月に開かれている「天山祭」にも足を運び、生前の詩人の姿を見たという。その文庫だが地震被害は軽微だったものの、周辺は原発事故に伴う避難準備区域に指定され、現在閉館中とのこと▼すでに川内村の行政機能は、ビッグパレットふくしま内に移り、仮役場で業務を行っている。奇しくも12日は、心平の誕生日。足しげく通ったころであれば、この理不尽な仕打ちに憤激し悲嘆にくれたことだろう▼放射性物質は大気を漂い、海水にまで影響をおよぼしている。心平の食卓に並んだものに「貝焼き」がある。専門店の主人によると「地場物は今年はだめでしょう」と言う。ほんのり甘いウニをかみ締め、杯を干す楽しみも我慢するほかないのか。
片隅抄