ハリウッドのフィルムノワールに『脅迫者』(1951年)がある。主演は名優ハンフリー・ボガート。地方検事補の役で、ある凶悪殺人の親玉を起訴に持ち込もうとするが、報復を恐れた証人が口封じに遭うというストーリー▼物語の始まりから追われるように教会に忍び込み、神父にざんげする検事補。やや難解なスタートだが、苦心の末に事件の背後にいる主犯格を追い詰めていく。モノクロ画面が人物の印影を色濃く映し出すなど、結末にいたるまで秀逸なサスペンス映画である▼こちらは現実の話。最近、国内で頻繁に発生し、死者も出ている強盗事件。主犯格とおぼしき人物らはフィリピンの入国管理局の収容施設にいるらしく、過去の特殊詐欺事件にも関与したとされる▼別の強盗事件で逮捕された容疑者らは、これらのつながりから「身元が握られ、家族などに危害が加えられるのを恐れた」という。人間らしさが残っているなら、まっとうに働けばよいものを。