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震災特集<6>災禍きっかけに 支援から三和町上三坂の里山文化発信へ
三和町上三坂地区に長く伝わる袖なし綿入れ半てん「おじょんこ」を、次世代に伝承する拠点「OJONCO(おじょんこ)館」。里山のコミュニティースペースとしても親しまれているが、東日本大震災を機に常磐湯本町出身の根本敦子(68)、佐藤敦子(69)さんらが中心となり「被災した故郷、いわきのために何か行動を起こしたい」という強い思いから、平成26(2014)年に誕生した。
震災発生12年の節目を前に、2人はおじょんこから生まれた数々の縁のありがたみを実感している。
「震災がなかったら、いわきに戻って来ようなんて思わなかったでしょうね」。根本、佐藤さんは湯本一中、磐城女子高(現・磐城桜が丘高)出身の同級生。大学卒業後は共に都内の会社に就職し、それぞれの道を歩んでいた。
平成23年3月、中学校の同窓会の連絡が互いの元に届き、旧友との久しぶりの再会を心待ちにしていた。その矢先、未曽有の災害が発生する。これまでに体験したことのないような揺れにおののき、津波があっという間に沿岸地域に暮らす人々の日常をのみ込んだ。続く原発事故が多くの国民を不安に陥れた。
故郷の惨状を報道で知り、「いわきのために何かしなければ」という思いを強くする中、震災の発生から約1カ月後、高校時代の同級生で、女優の秋吉久美子さんとともに「いわきを支援する女たちの会」を立ち上げ、積極的に支援活動を行ったことが2人の運命を変えた。
やがて「故郷いわきの力になるには、どうしたらいいか」と模索していたころ、「3代続いた医者の家で、後継者がいないのでいずれ解体する。使っていただけるなら、ぜひ」との話が舞い込んだ。
拠点では現在、おじょんこの製作技術と文化を次世代に伝えるため、豊かな三和町の里山文化の再発見と伝承、魅力の発信に尽力する団体「おじょんこStyle@上三坂」が活動する。
そばの栽培や、豊かな自然資源を活用した作品づくりなどを展開する「上三坂おじょんこキッズクラブ」の活動場所として利用されている。
根本さんは「場所が人をつくるのではなく、人が場所をつくり磨き上げる。震災をきっかけに出会った多くの人との縁を大切に、これからもいわきのために活動していきたい」と話している。