「3・11」がまた巡ってきた。寒気も緩み、ようやく春の訪れが感じられる頃に起きた未曾有の大震災。多くの人命を奪い、原発事故を引き起こすなど、その影響は12年経った今でも日常生活に影を落としている▼当時、あの出来事を体験した子どもたちはトラウマ、大人にとっては悪夢として残る。こちらも特異な心理状態にあったのだろう。忘れていた過去の記憶がよみがえり、いまだ消し去ることができない▼先日、いわきPITで上映の「うみのこえ」を観た。「3・11」から変わってしまった海と人とのつながり、取り巻く状況に対する違和感などを脚本にしたため、映像化した。約50分のショートムービーながら、地元アマチュア劇団員の演技が光る作品だった▼「つらいことって忘れたと思っても、また波のように寄せてくるんだ。海と同じ」。出演者の語る数々のセリフの中でも、特に印象に残った。忘却と想起を繰り返しながら、来年もこの日を迎えることだろう。
片隅抄