1945(昭和20)年8月6日午前8時15分、人類史上初めて、広島に原子爆弾が投下された▼爆心地周辺の地表面の温度は3~4千度にも達し、熱線と放射線、高熱火災、爆風などにより、今も正確な数は分かっていないが、その年の12月末までに約14万もが亡くなったとされる▼毎年この日が来ると、広島生まれの中沢啓治氏が被爆体験をもとに描いた反戦漫画「はだしのゲン」を思い出す。父きょうだいを失い地獄絵図のような焼けた街中で様々な死と向き合う中岡元。その凄惨な描写に、どんな怪談より恐怖を覚え、トラウマになるほど原爆の恐ろしさを知った▼作品は昨年、広島市の平和教育副教材から削除された。教育上不適切な表現が含まれているからだというが、いまだ決定には疑問符が付く。これほど当時を生きた人々の思いを知ることができ、非戦を訴える作品をほかに知らない。世界情勢が不安定な今こそ、この作品を若い世代に読んでほしいと願う。
片隅抄