音楽は時に為政者にとって不都合なものになる。韓国を代表する作曲家ユン・イサン(1917~95)は当時の朴正煕政権ににらまれ、67年に西ベルリンで韓国中央情報部(KCIA)に拉致され、スパイ容疑で死刑を宣告された。しかしストラビンスキーはじめ、同じ現代作曲家の活動によって釈放された▼ユン・イサンの作品に「光州よ、永遠に」がある。80年に全斗煥による軍事クーデターに抗議した学生・市民の大衆運動「光州事件」による犠牲者をいたむとともに、民主主義に対する力強さを表現する▼韓国では3日夜、その光州事件以来の戒厳令が出された。尹錫悦大統領は「国政がまひ状態にある」として突如、非常戒厳を発表。だが野党勢力による国会決議を受け、約6時間での解除表明となった▼結局のところ、本人が政治的に追い詰められていることが理由とされる。韓国政界の混迷は、日本にも大きな影響を与える。今後の動向を注視したい。
片隅抄