ニュース
津波被災の「奇跡のピアノ」大規模修復へ クラウドファンディング実施
東日本大震災の津波で被害を受け、復活した旧市立豊間中のグランドピアノの維持に、大規模な修復が必要になった。平のピアノショップいわきを経営するピアノ調律師遠藤洋さん(66)が家族総出で修復した奇跡のピアノ。
内部に広がった海水による塩害を抑える修復費用を募るため、遠藤さんは来年1月末までクラウドファンディング(CF)で協力を呼びかけている。震災から15年となる同年3月11日に、いわき伝承みらい館で開く追悼ミニコンサートで新たな音色を披露する予定という。
14年前の3月11日。ピアノは豊間中体育館で行われた卒業式の直後、津波に襲われ、海水や砂などが内部に入り、大きなダメージを受けた。遠藤さんは中学校やいわき市、寄贈者の家族から了解を得て、ピアノを引き取った。これまで海水を浴びたピアノを直した経験はなく、試行錯誤を続けた。
ピアノを構成する大小約1万点の部品を取り外し、真水や洗剤、塩分除去剤などで徹底的に洗浄。震災の年の年末までに音色を取り戻し、NHKの紅白歌合戦でアイドルグループ嵐の桜井翔さんが演奏すると、奇跡のピアノとして広く知られるようになった。
しかしピアノ線(弦)の腐食は止まらなかった。本来は30年から35年に1回とされる弦の張り替えを、15年弱で5回以上、繰り返してきた。弦に密着し、響板に振動を伝える木材部品の駒に染み込んだ塩分が腐食の原因とみられた。本来、駒の交換は想定されておらず、正確な音に影響が出ないよう、金ヤスリを使ってコンマ・ミリ単位で表面を削るほかなかった。
2年前、宮城県の木工職人の協力を得て、低音部の短駒の上半分を切り出し、試験的に交換することができた。音色の変化はほとんどないことが確認でき、中音・高音部の長駒も交換することにした。CFでは、短駒の持ち出し分を含む駒の交換代と、ピアノを分解し、部品を入れ替えるオーバーホール代の計290万円を目標に募集している。
奇跡のピアノはこれまでに、国内外で100回以上、演奏されてきた。遠藤さんは「今回の大規模修復により、弦の腐食を抑えることができれば、今後50年から100年は長持ちするのではないか。震災の記憶と復興への思いを、音楽とともに未来へつないでいきたい」と協力を呼びかけている。詳しくは<こちら>へ。
(写真:奇跡のピアノを囲む遠藤洋さん=左から2人目=ら)