一昨年の年末は大学駅伝で有名な箱根にいて、昨年末は群馬の伊香保、栃木の鬼怒川といった温泉どころにいた▼若いころは見向きもしなかった温泉めぐりだが、年をとったせいか、ここ数年は日帰りを中心に温泉につかるのが楽しみになっている。旅館・ホテルが建ち並ぶ有名温泉地もいいが、山あいの秘湯もいい▼鬼怒川は栃木県を代表する温泉街だが、それでも廃業になった建物が見られた。日光江戸村や東武ワールドスクエアといった観光施設を抱えていても安穏としていられないのだ▼人が温泉にひかれるのは普段のせわしい毎日を離れてゆったり温泉につかる非日常を味わいたいからだろう。温泉情緒は大事な要素だ。いわき湯本温泉では昨年暮れ、地元商店街の店頭に〝湯つぼ〟が設けられた。小さいがほんのり湯煙がたち、手を入れれば温かさが伝わってくる。「点滴岩をもうがつ」のたとえがあるように、街を歩いてもらう楽しみにつながる効果に期待したい。
片隅抄