たった1度だけ、ついカッとなり本気で娘の頭を叩いたことがある。小学生だった娘は泣かなかった。泣くことも忘れ、親の激高ぶりにこれまでにないおびえ方をしたのである。その表情は今も忘れていない▼過ちはまた繰り返された。鬼畜のような親の虐待で2人の子供が殺されたのである。この種の事件が起きるたびいつも思う。一方の親はどうした? 祖父母は何をしていた? 親類は、火の粉を被りたくない隣近所は無視を決め込んだか? 幼稚園や学校は見て見ぬふりか? 役所は「やることはやった」と詭弁を弄するのか?▼1人のいたいけな子供が親の虐待で死ぬという現実を見るとき、隣人同士、表面では笑顔で繕っていても、現実はいかに利己的であるかを思い知らされる。そうでなければ、どこかで子供の命は救われたはずだ▼「子供は親を選べない」という言葉は重い。今も虐待されている子供はいる。世間はまたも黙って見過ごしているのだろうか。
片隅抄