戦前の昭和を舞台に製薬会社のサラリーマン水田仙吉と実業家門倉修造の友情を描いた、向田邦子原作の『あ・うん』。テレビではフランキー堺と杉浦直樹が演じ、いい味を出していた▼物語の終盤では、水田がジャワへの赴任を決心したところに門倉が顔を出す。「あっちは暑いんだから、汗疹とマラリアに気をつけろ」と告げる。南方と製薬会社。当時の関係がいまひとつ理解できなかった▼最近、三沢美和星薬科大教授の資料を読んで合点がいった。「キニーネはキナの樹皮に含有されるアルカロイドであるがマラリアに着効する」。東南アジアを植民地にしていた列強は、マラリア対策に大量のキニーネを必要とした▼第1次世界大戦で敗れ製薬企業が弱体したドイツに代わり、世界に医薬品を供給した星製薬。創立者はいわき市出身の星一。そのドイツに資金援助した星をたたえ、このほど同国が記念碑を市に贈った。郷土の偉人に海外から再び光が当てられている。
片隅抄