プロ野球の世界では時に〝職人芸〟に秀でた選手が出てくる。送りバントの名手・川相昌弘選手がそうだ。「捕るのが速いか、投げるが速いか」と言われた阪神の吉田義男選手も守備の〝職人〟だった▼コツコツと技を磨き、派手さはないけれど玄人受けするプレーを披露する。本家本元である技能職の〝職人さん〟たちの世界もそうだ。親方や先輩から厳しくとも愛情のある指導を受け、経験を積みながらおのれの腕一本で身上を築く▼「就職志望の子が来たんだけど、最初から『給料はいくらですか?』だからね」と苦笑するのは板金業界のベテラン職人だ。若者には給料がいくらかは大事だが、雇う側からすれば、職人としてこの道に入る心意気を見せてほしかった。「その子は結局あきらめたよ」▼技能職の世界はいま後継者不足、高齢化に悩んでいる。昔のような徒弟制度はないに等しいが、〝職人〟の世界にマイナスイメージを感じるのだろうか。若者よ、来たれ。
片隅抄