無けい礙(むけいげ)―ある茶席の掛け軸で出合った般若心経の中の言葉だ。?礙とは「わだかまり」。般若心経では、「心無けい礙 無けい礙故 無有恐怖」と続き「わだかまりを無くせば、心の平安が得られる」という意になる▼先日市内の禅寺で、その般若心経を書き写す写経会があった。筆と半紙を前に正座する参加者を前に、住職は言った。「上手下手は問題ではない。書き写すことで得られる心の平安が大事」▼思えば、先ごろ他界した伯父も、職を退いた晩年は毎日写経をしていた。当時は、信仰心ゆえの日課かと思っていたが、今にしてみれば、それは自身の心を落ち着かせ、人生を振り返るための時間だったのだと分かる▼生きる上で、わだかまりを捨てることは必要であり、しかし他人とかかわって暮らす日々においては、非常に難しいことでもある。ただ、多くの人がその術を求めていることも、静寂の中、本堂で一心に写経に臨む人々の姿から感じ取れた。