徳洲会グループからの資金提供で四面楚歌にある猪瀬直樹東京都知事。かつて出演した深夜の討論番組では、舌鋒冴える論客だったが記者会見を見る限り、その面影はない▼2020東京オリンピック招致では都政の顔として、あらゆる場面で活躍したものの好事魔多し。思わぬ形で窮地に立っている。ノンフィクション作家としては興味ある人だった。初期の作品に『天皇の影法師』がある▼幻の元号「光文」誤報事件や京都の山深くひっそりと息づく八瀬童子の存在など読後、綿密な取材をもとにした筆致に感心したものだ。招致成功をきっかけに、昭和39年の開催を回顧する特集がメディアで多く取り上げられている▼エピソードの1つに当時の国民的ヒーロー力道山が現金1000万円をオリンピック財団に寄付している。自らがリングで流した血と汗の代償だが当時としては破格。「将来の生活に不安があった」と弁明する人とはスケールが違う。15日が没後50年。
片隅抄