作家でアイドル評論家中森明夫の近著『寂しさの力』は、寂しさこそが人間の根源的パワーだと説く。一例に挙げているのが、ウォルト・ディズニーだ▼ディズニーは父に虐待され、幼少時から過酷な労働を強いられ育ったという。それゆえ創設したディズニーランドには「子ども時分に欲しいと思っていながら手に入れられなかったものすべてを盛り込んだ」そうだ▼ところで、この本のタイトルの「寂しさ」は、「さびしさ」ではなく「さみしさ」である。著者にとって「さみしさ」の方が、思いに沿うのだろうが、日本語の妙味に触れた思いがした▼寂しいは、上代の「さぶし」が「さびし」となったもの。近世以降に「さびし」と、音変化した「さみし」が並んで使われるようになった。今は歴史の古い「さびしい」を標準形とする考え方が多いようだが、「さみしい」の方が情感があると、好んで使うケースも。同じ音変化の例には、目を「つぶる」と「つむる」がある。