福島県は果樹王国として有名だ。スーパーに行けば梨やブドウなど、本県産のフルーツが所せましと並べられ、あれもこれもとつい手が出てしまう▼これからの時期なら新高と呼ばれる梨がいい。少し実は硬いが甘さがあって、梨好きには毎日食べても飽きのこない味だ。もう少しするとリンゴが出てくる。甘酸っぱい味にサクッとした口の中での感触がこたえられない▼秋になると抄子の家には、地元で収穫された梨を軽トラックに積んだ果樹農家の人が来ていた。「梨いんないがい」と言って、農家のおばさんが隣近所を回っていた。ところが、数年前から姿を見かけなくなった。聞けば自身の高齢化と後継者がいないことから、果樹農家を廃業したという▼温室や養殖技術の発達によって、季節に関係なくさまざまな食物が口に入りやすくなった今、梨売りの声に秋の深まりを感じてきた身としては、季節の風物詩がまた一つ消えたような気がして、何とも寂しい。
片隅抄