お盆である。〝盆と正月〟というが、夏と冬のこの時期、親せき筋が田舎の本家に里帰りして互いに久しぶりに顔を合わせ、気の置けない者同士、近況を報告しあったものだ▼子どもの頃はにぎやかなお盆だった。埼玉から神奈川から千葉から家族総出で集まって、寝るときのわが家はまるで修学旅行のようだった。食卓にはまだ元気だった母が畑から採ってきた野菜で作った総菜や味噌汁が並んだ。〝田舎の味〟である▼子どもたちは家の前の川で夢中になって魚取りをし、ハワイアンズを心待ちにし、タイミングが合えば町の盆踊りに参加した。自分自身も母の実家に一泊で遊びに行ってもう1組の祖父母に甘えたものだ▼昔は豊かなお盆だったような気がする。祖父母や叔父・叔母が1人また1人と亡くなり、いとこたちの足もだんだん遠のくと、わが家のお盆も静かになった。ほかの家ではどうなんだろう。親戚づきあいが遠のいたことを知らされる夏の1日である。
片隅抄