入庁した新人職員に向けた訓示で、職業差別ともとれる発言をした静岡県知事。意図はなかったというが、わざわざ業種を挙げる必要もなかったろう。人間等しく差別意識が潜んでいるが、一端出た言葉は引っ込みがつかない▼職業に貴賤はない、と弁明しても遅い。さらに「知性」などという歯が浮くような言葉を聞かされると、当の新人職員も困るだろう。若くして亡くなった作家井田真木子さん。平成3年、自著『プロレス少女伝説』が大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した▼その選考委員に「知の巨人」と称された人物がいた。ある時代、権力者の裏側をルポし、一躍時の人となった。この委員がプロレスというジャンル選択に猛反対し、受賞は認めないと論じたという▼ジャーナリズムの最前線で脚光を浴びた御仁には、考えられないことだったのだろう。最初から完成した「知性」などなく、長い時間をかけて学び精進し、磨いていくものではないか。
片隅抄