車で移動していては見過ごしてしまう風景がある▼平の市街地をぶらり歩いて気がついたのだが、南北にのびる道路沿いに高いビルが立ち並び人や車の通行量が多いのに対し、東西方向は道路というよりむしろ路地といった方がふさわしい感がある▼道幅はそう広くなく人通りも少ないが、その代わりしゃれた割烹料理店や古い理髪店、魚屋、意味ありげなお社などが点在する。人の息遣いが感じられる空間なのだが、このところ古い建物が壊され、そこに高層のホテルが建ったり駐車場に変わったりしている▼市内有数の盛り場の田町も例にもれず新しいビルが立っている。今から30年ほど前、この界隈(かつては芸者さんが行き来した紅小路)に古くて小さな鍋焼きうどん屋があって、新米記者時代によく食べに通った。使い込んだ鍋に盛られた揚げたてのエビの天ぷらは天下一品。店を切り盛りする老夫婦との話が隠し味になる。歩きながらそんな昔を思い出していた。