禅僧で青森県・恐山菩提寺の院代(住職代理)南直哉の新著『刺さる言葉』は、氏のブログ「恐山あれこれ日記」の記事を抜粋、再構成したものだ。読む中で、タイトル通りの〝刺さる言葉〟に出合った▼その1つは「すべての仏像は美術品になるためではなく、仏になるために造られたもの」。背景にあるのは、かつて東京国立博物館で展示された薬師寺の日光・月光菩薩像を鑑賞しようと、多くの人々が押し寄せたことだ▼氏は言った「菩薩像を素晴らしい彫刻として見るのは結構。だがそのうちの何人が掌を合わせて像を仰いだのだろうか」。そうだった――決して忘れてはいけないはずなのに忘れそうになっている真理に触れた、というより突きつけられた思いがした▼われわれは日ごろ、人間関係や損得勘定など、いわゆる雑多な世事の海を渡りゆく中で時に、それらに流され、物事の本質を見失うことがある。「それではいけない」と教えてくれた言葉であった。